#17 エアマックスの影響と文化への貢献 世界を変えたナイキのアイコン
エアマックス看板

2024.4.19

エアマックスの影響と文化への貢献
世界を変えたナイキのアイコン

佐藤 誠二朗さんメンズファッション誌
「smart」元編集長
佐藤 誠二朗さん

メンズ雑誌「smart」をはじめ、これまで多数の編集・著作物を手掛けている佐藤さん。
2018年11月には「ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新」が発売。
こちらを本屋で見かけて読まれた方もいるのでは!?
そんな佐藤さんが当店の取り扱いアイテムをコラムで熱く語ってくれるコーナーです!
実はあまり知られていないブランドの歴史などもこれを見れば知ることができるかも!?

建築物から思いついた“見えるエアバッグ”

1987年、スニーカー界で一大エポックメイキングとなる出来事がありました。
ナイキ「エアマックス1」の発売です。
「エアマックス1」とは、ソールに施されたナイキ社独自のエアクッションシステムを、外から見えるようにデザインした画期的なスニーカー。

「エアマックス1」の登場前から、ソールにエアバッグを採用したスニーカーは存在していました。
しかしそうしたスニーカーのエアバッグはいずれも、ソール内部に密閉されていました。
そして密閉されたエアバッグは力が入った際に圧の逃げ場がなく、走破性が不安定になりがちという難点があったのです。

その問題を解決すべく、ナイキのデザイナーであるティンカー・ハットフィールドは策を練り、大きな窓を開けてエアバッグの一部を露出させたミッドソールを発案します。
このアイデアは、ティンカーがパリを訪れ、ポンピドゥー・センターという有名な建物を見ているときに思いついたのだそうです。
1977年に建築されたポンピドゥー・センターは、一般的な建物では内側に配置し、外からは見えないように隠されている設備配管を、あえて外側に出して外観デザインとしていることが特徴の建物。
ティンカーはそれを見て、スニーカーのエアバッグを外から見えるようにするデザインを思いついたのです。

ミッドソールに開けたウィンドウから圧が適度に解放されるため、従来品よりも多量のエアを充填できることから、このソールのシステムは“マキシマムエア”あるいは“マックスエア”と呼ばれることになり、商品名は「エアマックス」に決まりました。

そしてリリースされたビジブルエア=“見えるエアバッグ”搭載商品第一号の「エアマックス1」は、発売されるや瞬く間に大きな反響を呼び起こします。
エアバッグが見えるという斬新さに加え、シンプルなデザインや通気性の良さが注目されたのでした。

その後エアマックスは、1990代に巻き起こる“ハイテクシューズブーム”の牽引役となるほどの人気商品に成長。特に後述する「エアマックス95」は、日本において社会現象となるほど、当時のストリートシーンで熱狂的な支持を受けるようになったのです。

エアマックス①
photo:Katie/flickr

「エアマックス95」のブレイクまで

「エアマックス95」を紹介する前に、1987年の「エアマックス1」以降の主だったエアマックスシリーズのモデルを見ていきましょう。

シリーズ3代目の「エアマックス90」は、2000年の再リリースまでは「エアマックス3」と呼ばれていました。発売は、その名が表す通り1990年です。
エアが封入されたミッドソール内部を見せるウィンドウの周りを、鮮やかな配色で強調する挑発的なデザインが話題になったモデルです。

1991年に発売された「エアマックスBW」の“BW”とは、“ビッグ・ウィンドウ”のイニシャル。エアマックスシリーズの中では幾分地味な存在ですが、その美しいシルエットがスニーカーマニアから高く評価されたモデルです。

同じく1991年発売の「エアマックス180」は、ソールの裏側まで透明な素材を使い、文字通り180度でソール内部を見せる仕様。アッパーはレトロな雰囲気もあり、エアマックスシリーズが本格的にハイテク化する前夜のモデルであることがうかがえます。

1993年発売の「エアマックス93」は、ヒールにまで拡大した270度のエアウィンドウが特徴で、ソールに封入されるエアの量も一段と増加したモデル。靴下を履いているかのようなフィット感が得られるアッパーも特筆ものの人気スニーカーです。

こうした数々の歴代モデルを見ると、エアマックスシリーズが市場の支持を背景にしながら徐々に進化し、ハイテク化していくのがわかります。
今では絶版となり入手困難なモデルもありますが、もし気になったら中古市場などのぞいてみるのも一興でしょう。

そして大本命の「エアマックス95」が1995年にリリースされるわけですが、このモデルは“スニーカーデザインを新たなレベルに押し上げた、ナイキ歴代最高のシューズ”という評価もあるほどの、ある意味、神がかったスニーカー。
その人気は驚くほどで、特に日本市場の盛り上がりが熱く、日本の若者が世界へストリートのトレンドを発信する契機にもなった記念すべきモデルです。

エアマックス②
photo:Christian H./flickr

社会現象となった「エアマックス95」

「エアマックス95」のデザイナーは、セルジオ・ロザーノ。アッパーの独特なデザインは、人体からインスピレーションを受けて生まれたものです。
すなわち、ミッドソールが背骨、つまさきからかかとに伸びる層になったパネルが筋肉繊維、その上のメッシュ部分が皮膚、ループホールとストラップは肋骨を表しているのです。

ナイキのスニーカーといえば、側面にブランドのシンボルであるスウォッシュを大きくあしらうモデルが多いですが、「エアマックス95」はサイドパネルの後部に小さく入れられているだけ。ブランディングを最小限に抑えたこのデザインもまた、「エアマックス95」の大きな特徴と言っていいでしょう。
ソールのエアバッグはこれまでのモデルよりもさらに拡大し、従来モデルのようなヒール部だけではなく、ソールの前部にまで広がっています。
この新しい試みをアピールするためにエアウィンドウも増加し、デザイン上の重要なポイントとなっています。

「エアマックス95」は発売当時、他のスニーカーと比べてかなり価格が高かったにも関わらず、とにかく爆売れして品薄状態になり、中古でも異常なほどの高値で取引される状況となりました。
人気タレントやモデルがCMや雑誌などで着用したことも追い討ちとなってさらにレアモデル化し、入手できないことに業を煮やした一部のスニーカーマニアが、「エアマックス95」を履いた人を襲撃して奪い取る事件も頻発。
こうした事件が“エアマックス狩り”として報道されたため、スニーカーに興味がない人もエアマックスを認識するという社会現象となりました。

ブームが一段落した後も「エアマックス95」はナイキ史上、いやスニーカー市場に燦然と輝く不朽の名作モデルとして別格の存在感を示し、発売開始から間もなく30年が経過するというのに、いまだに人気が継続しています。
「エアマックス 95 エッセンシャル」は、その名作「エアマックス 95」を元に、オリジナルカラーを使用せず現代的にアップデートしたモデルです。

【NIKE】
【NIKE】
エアマックス③
photo:sling@flickr/flickr

エアマックスシリーズの人気モデル3選

エアマックスのDNAを受け継ぐ、「エアマックス95」以降の人気モデルを3つご紹介しましょう。

まずは1997年に発売開始された「エアマックス97」。「エアマックス95」のデザインを踏襲したかのような、層状の波打つパネルが特徴のモデルですが、デザインのインスピレーションは人体ではありません。このデザインのモチーフとなったのはなんと、日本が世界に誇る超特急電車、新幹線なのです。
エアバッグはさらに拡大し、ついにソール全体にまで広がっています。「エアマックス95」に輪をかけたようにハイテク・近未来デザインのこのスニーカーは、ヨーロッパを中心に人気が爆発。
現在もリピート買いする人が続出する、ナイキのマスターピーススニーカーのひとつです。

【NIKE】

2015年に発売された「エアマックスLTD3」は、アッパーに本革と合成皮革を使用し、高級感を醸し出しつつも耐久性と快適性に優れ、履き心地のよさが魅力のモデルです。
シンプルデザインなので、どんなスタイルとも相性が良く、タウンユースからトレーニングシーンまで幅広く使える万能シューズとして支持を集めています。
“エアマックスといえばハイテク”という刷り込みのある人には新鮮にも映る、クラシカルなアッパーのデザインは、最初期のエアマックスを彷彿させるようなクラシカルな雰囲気で、魅力のひとつとなっています。

【NIKE】
【NIKE】

「エアマックス270」は2018年発売ですので、シリーズの中では比較的、新顔に分類されるモデルです。
従来のエアマックスシリーズはランニングシューズとして作られてきたのに対し、このモデルはナイキ初の“ライフスタイルシューズ”として開発されています。
スポーツモデルではなくても、クッショニングや歩行感などの完成度は高く、NBAプレーヤーのケビン・デュラントが試合前の休息用として着用するなど、アスリートからの支持も厚いモデルです。

【NIKE】
【NIKE】
【NIKE】
【NIKE】
【NIKE】

駆け足で紹介してきましたが、エアマックスの魅力がご理解いただけたでしょうか?
スニーカーというアイテムをアップデートし、現在に続くスニーカーカルチャーを形成したエアマックスシリーズを、是非ワードローブに加えてみてください。

エアマックス④
photo:Annie Mole/flickr

エアマックス一覧はこちら トップページへ戻る