#20 スタンスミスとスーパースター 歴史と魅力を徹底解説!
アディダス看板

2024.5.22

スタンスミスとスーパースター
歴史と魅力を徹底解説!

佐藤 誠二朗さんメンズファッション誌
「smart」元編集長
佐藤 誠二朗さん

メンズ雑誌「smart」をはじめ、これまで多数の編集・著作物を手掛けている佐藤さん。
2018年11月には「ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新」が発売。
こちらを本屋で見かけて読まれた方もいるのでは!?
そんな佐藤さんが当店の取り扱いアイテムをコラムで熱く語ってくれるコーナーです!
実はあまり知られていないブランドの歴史などもこれを見れば知ることができるかも!?

もともとは違う名前だった「スタンスミス」

アディダスの「スタンスミス」は、1971年生まれのスニーカー。
でも資料によっては、発売年が1965年とされていたり1973年とされていたりします。
この混乱の原因は、「スタンスミス」というスニーカーの誕生の経緯が少々複雑だからです。

「スタンスミス」には前身のスニーカーがあります。それは、1965年に発売された「ハイレット」。フランスのテニスプレーヤー、ロバート・ハイレットにちなんで名付けられたシグネチャーモデルです。
「ハイレット」のデザインは、後の「スタンスミス」とほとんど同じですが、アウトソールが少し厚く、ヒールにアディダスのトレフォイルロゴはありませんでした。

サイドパネルにアディダス定番の3本ストライプではなく、3本のベンチレーションホール(通気穴)によるラインがあるのは「スタンスミス」と同じ。そしてラインの上には「Robert Haillet」の文字が筆記体で刻まれていました。

しかしロバートは間もなく現役を引退します。
するとアディダスは1971年、「ハイレット」を試合で愛用していた若きアメリカ人テニスプレーヤー、スタンレー・ロジャー・スミス(通称スタン・スミス)と契約し、以降、同モデルは「スタンスミス」という名前に変更されます。
そして1973年、シュータンにスタンレーの顔の絵と署名が登場したことをもって、正式に「スタンスミス」ブランドとして認識されるようになったのです。

「スタンスミス」と言えば誰もがすぐに思い出す、このスタンレーの顔のマークですが、実際の彼は口髭がトレードマークの選手。でも「スタンスミス」のシュータンの絵には、肝心の口髭がありません。
ここに描かれているスタンレーの顔は、1946年生まれの彼が24〜25歳の頃、つまりアディダスとまさに契約をしようとしていたとき撮られた写真がベースになっています。

スタンレーは、南カリフォルニア大学の学生だった1968年頃にテニス界で頭角を表し、当時から既に口髭を生やしていたのですが、なぜかこの写真が撮られた頃だけ剃っていたのだそうです。

アディダス①
photo:adifansnet/flickr

ギネスブックにも記載される永遠のスタンダード

アディダスが誇る普及の名作「スタンスミス」は、ギネスブックに“世界で一番売れたスニーカー”として記載される、圧倒的なベストセラーモデル。
もっとも、コンバースの「オールスター」の方が売れているのという説が濃厚なのですが、ギネスブックの記録は1955年以降の販売数で認定されているため、1917年に発売された「オールスター」は初期の数字が勘定されていないのです。

ハリのあるレザーに色違いのヒールパッチ(ブラックバージョンのようにオール一色の例もあり)、そしてベンチレーションホールで表現された3本ラインが「スタンスミス」の象徴。とにかくシンプルで、老若男女向けのスタンダードなデザインです。

悪く言えば、あまり特徴がないようにも見えるデザインですが、なぜ「スタンスミス」はここまで人気が高いのでしょうか。
それにはいくつかの理由が考えられます。

まずは1980年代にファッションアイコン化したことです。純粋なテニスシューズとして知られていた「スタンスミス」は、1980年代に入った頃から、音楽や映画などのカルチャーシーンで有名人が履く姿がしばしば見られ、ストリートファッションのアイコンとして広く認知されるようになりました。

2000年代に入るとアディダスは「スタンスミス」の生産を一時中止しまが、根強いファンからの復活を望む声に押され、その後リバイバル。
再リリースされたときはより大きな注目を集め、かつてのファンだけでなく新しい世代にもファン層が広がっていきました。

また2010年代に入ると、多くのセレブリティやファッションインフルエンサーが「スタンスミス」を着用し、SNSで発信したりやメディアで取り上げられたりすることが増えました。
さらに2010年代中頃に起こった“ノームコア”ブームとの相性も良かったため、「スタンスミス」人気はさらに加速します。

「スタンスミス」はベースがシンプルなだけに、さまざまなブランドや有名デザイナーとのコラボレーションモデルも生まれました。
こうしたの要因が重なり、「スタンスミス」はマスターピースと呼ぶに相応しい、永遠の人気モデルの地位についたのです。

【アディダス】
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アディダス②
photo:Paula Peris/flickr

あまりにも斬新なデザインのバッシュー

続いてアディダスのもう一つのマスターピースモデル、「スーパースター」を深掘りしてみましょう。

バスケットボールシューズとして1969年に発売された「スーパースター」には、兄弟モデルがあります。「プロモデル」というハイカットシューズで、「スーパースター」は「プロモデル」のローカット版という位置付けでした。
レザー製でローカットのバスケットボールシューズは、「スーパースター」が世界初のものだったといいます。

「スーパースター」の最大の特徴は、なんといってもラバー製のトゥー(つま先)デザインでしょう。
縦にラインが入り貝殻のように見えることから、「スーパースター」はファンから“シェルシューズ”というニックネームで呼ばれるようになります。

「スーパースター」(および「プロモデル」)登場以前の長い間、バスケットボールシューズといえばコンバースのキャンバスシューズ「オールスター」のようなデザインがスタンダードでした。
そこへ登場した「スーパースター」のあまりに斬新なデザインに、当時のフットウェア業界は衝撃を受けつつも、“あんな奇抜なシューズが売れるものか”と軽く見られがちだったそうです。

ところが当時のプロバスケットボール界の一流プレーヤーが、こぞって「スーパースター」を大絶賛。1970年代には瞬く間に、バスケ界へ深く浸透していきます。
その頃活躍したNBAのレジェンド、カリーム・アブドゥル=ジャバーも「スーパースター」の熱心な愛用者でした。
彼は試合中の「スーパースター」の履き心地について聞かれると、“足に三本線がプリントされているようだ”と表現。
全盛期の1970年代中頃〜後半には、NBA全選手の約7割が「スーパースター」を履いていたと言われています。

しかし、これはあらゆるスポーツギアの宿命でもありますが、そんな「スーパースター」も1980年代には、新しい技術で作られた最新モデルに押されがちになります。
純粋なバスケットシューズとしては、機能性で見劣る点が隠せなくなってきた「スーパースター」は、徐々にプロプレーヤーの足元からは消えていきました。

アディダス③
photo:adifansnet/flickr

ヒップホップシーンで人気爆発した1980年代

しかし「スーパースター」は1980年代、プロスポーツ界とはまったく別の分野で、突如大きくクローズアップされることになります。
そのきっかけやはっきりした理由ははかり知れませんが、ヒップホップシーンの大物が「スーパースター」に注目したのです。
特に1980年代ヒップホップ革命の中心地であるニューヨークのクルーたちの足元には、まるでユニフォームのように軒並み「スーパースター」が輝いていました。

当時のヒップホップシーンをリードしていた大人気グループRun-D.M.C.のメンバーは、シューレースを外した「スーパースター」を履き、ブランドに敬意を表した「マイ・アディダス」という曲まで発表します。
ライブで彼らがこの曲を始めると、観客も履いていた「スーパースター」を脱ぎ、頭上に高く掲げてレスポンスするという現象まで起きました。

彼らが「スーパースター」を紐なしで履いたのは、ヒップホップシーンを育んだゲットーのギャング文化に由来しています。
刑務所では逃走防止の目的で、履いている靴の紐を抜かれますが、抑圧されたゲットー生まれのヒップホップシーンでは、ムショ帰り風のヤバい雰囲気をアピールすることもステイタスの一つだったため、このスタイルが生まれたと言われています。

こうした1980年代の異様な熱気が一段落した1990年代には、スケーターの間でも「スーパースター」が支持されるようになりました。
もともと、プロのバスケットプレーヤー向けに開発されたシューズなので、「スーパースター」の耐久性と履き心地は定評がありました。
そうした機能性と確立されたデザインの良さから、スケーターは「スパースター」を愛用するようになり、レジェンドスケーターにしてアーティストのマーク・ゴンザレスも「スーパースター」の信奉者の一人でした。

その後も「スーパースター」は、ストリートカルチャーの定番として愛され続け、今年で生誕55周年を迎えます。

【アディダス】
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さて、いかがだったでしょうか。
「スタンスミス」も「スーパースター」も、今や誰も文句のつけようがないド定番のマスターピースです。
それゆえに、合わせるスタイルも自由度が高く、自分なりのコーディネートをしやすいスニーカーだとも言えるでしょう。
この機会に、あなたのワードローブに加えてみてはいかがでしょう。

アディダス④
photo:Dunk/flickr

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