2023.12.27
世界中で広く支持を集める老舗ブランド バブアー
メンズファッション誌
「smart」元編集長
佐藤 誠二朗さん
メンズ雑誌「smart」をはじめ、これまで多数の編集・著作物を手掛けている佐藤さん。
2018年11月には「ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新」が発売。
こちらを本屋で見かけて読まれた方もいるのでは!?
そんな佐藤さんが当店の取り扱いアイテムをコラムで熱く語ってくれるコーナーです!
実はあまり知られていないブランドの歴史などもこれを見れば知ることができるかも!?
世界中で広く支持を集める老舗ブランド
イギリスでも屈指の長い歴史を誇るアウトドアウェアブランド、バブアー。
故・エリザベス2世や現在のチャールズ国王など、英国王室メンバーが公の場でたびたび着用していたことからも、バブアーのウェアは品質最高級で、また格調が高いということがわかるでしょう。
今ではナイロンジャケットやキルティングジャケット、シャツ、パンツ、様々な小物類など、メンズ、レディース、キッズ、そしてペット用品まで多岐にわたる商品を展開し、日本を含む世界40カ国以上で販売されるバブアーですが、ブランドとしてのアイデンティティをもっとも色濃く反映しているのは、伝統的なワックスジャケットだと言って間違いありません。
独特のワックス加工が施された、丈夫なコットン生地を使用するバブアーのジャケットは、人間の体を雨や風から保護することを目的に設計されています。
そのワックス加工法は、門外不出のブランドオリジナル。ジャケットに水を弾く性質を与え、厳しい条件下のアウトドアでも優れた機能性を発揮する優れものです。
時代を超えて愛されるデザインと機能性で、世界中のアウトドアマンからファッション愛好家まで注目するバブアー。その圧倒的な信頼は、どのようにして勝ち取っていったのでしょう。
その答えを知るためには、ブランドの歴史を紐解くのが近道のようです。
バブアーを創業したのは、ジョン・バブアーという人物。彼は1870年から、イングランド北東部のサウスシールズという街で布地の行商を始めました。
サウスシールズはその頃、炭鉱と造船業で栄え、主要な石炭輸出港を抱える街としても知られていました。
北海に面しているサウスシールズは、イギリス北東部特有の過酷な気候にさらされる土地でもあります。
涼しく短い夏と長く続く寒い冬、常に吹き続ける強風と、分厚い雲に覆われた曇り空が特徴で、年間平均気温は2℃から19℃の間で推移。もっとも暑い真夏でも最高気温が23℃を超えることは稀です。
こうした厳しい気候の中で働く人々のを見て、ジョン・バブアーはビジネスチャンスを見出しました。
彼は寒さ、風雨、海水に耐えうる実用的な衣服を作れば、大きな反響を得ることができると考えたのです。
漁師の命を救ったバブアー
ジョン・バブアーが商売のターゲットと見込んだのは、荒れ狂う北海で勇敢に働く漁師や水夫、港湾労働者でした。
ジョンが手がけた最初の商品は、独自開発した鱈の肝油オイルでコーティングしたエジプト綿の布地です。
そして1894年には、サウスシールズのマーケットプレイス5番地に、J Barbour & Sonsという店を開き、そのオリジナル生地を使った衣類の販売を開始。
ここから、ブランドとしてのバブアーがスタートします。
バブアーの最初の製品であるオイルドクロスの防水ジャケットは、「ビーコンシリコイル」と名付けられました。
他社の既存製品に比べ、バブアーの防水ジャケットは機能性が際立っていましたが、あるとき、極限の現場でそのことが証明されます。
操業中、嵐に遭遇してしまったある漁師が、数日間にわたって海上をさまよったのちに救助されました。彼は長時間にわたって冷たい強風雨にさらされていたにもかかわらず、健康状態に大きな問題が見られませんでした。
実は、そのときに彼が着ていたジャケットこそが、バブアーの「ビーコンシリコイル」だったのです。
内側の服はほとんど濡れていなかったということなので、彼はこのジャケットのおかげで命拾いしたといって間違いありません。
この逸話はイギリス中で広く知られるところとなり、バブアーのジャケットの評判が瞬く間に広がっていきました。
バブアーのジャケットが海の男たちだけでなく、農民や工場労働者などにも注目されるようになるまで、そう時間はかからなかったといいます。
こうしてバブアーはみるみるうちに、イギリス国内でも有数の防水ジャケット製造会社へと成長していきました。
バブアーのジャケットが労働者たちから高い評価を受けた最大の理由は、その卓越した防水性と防風性にあります。
さらに、オイルでコーティングされた布地の耐久性が高く、過酷な条件下でも長持ちすることも大きな理由でした。
またバブアーは、ジャケット表面のオイルが剥がれた場合、販売店で再コーティングする保証を提供していました。このようなサービスは、資金に余裕のない労働者にとって大変ありがたいもので、バブアーのブランド信頼性を高める一因となりました。
定評のある「インターナショナル」
20世紀前半には、バブアーの耐久性の高いウェアは軍服としても採用されました。第一次世界大戦中、バブアーのオイルドクロス製トレンチコートをイギリス軍が採用。第二次世界大戦ではさらに注目されることになります。
第二次世界大戦中、ナチスドイツのU-ボートとの戦いに苦しんでいたイギリス海軍の艦艇、ウルスラ号の艦長ジョージ・フィリップス大佐は、乗員に適したユニフォームを探していました。
ある日、バイクレースを趣味とするレイキン中尉が、防水性に優れたバブアーのライダースジャケット「インターナショナル」を愛用していることを知り、消火栓で放水実験をおこないます。
高い水圧でじゃぶじゃぶ水をかけても、「インターナショナル」の中の服はまったく濡れなかったため、フィリップス大尉はサウスシールズのバブアー社にオイルドクロスの軍服をオーダー。このユニフォームは後に「ウルスラジャケット」として復刻され、現在でも販売されています。
では、この逸話の中にも出てくる「インターナショナル」というジャケットにも注目してみましょう。
現在数多くラインナップされているバブアーのアウターウェアシリーズの中でも、“インターナショナルシリーズ”は特に高い支持を受けています。
1936年に発売された、高機能かつ洗練されたモーターサイクル用ジャケット「インターナショナル」は、バブアーの伝統的なワックスジャケットの特徴を保ちながら、より洗練されたスタイルと機能性を融合させていたことで、発売当初から高い人気を博しました。
1950年から70年代にかけての6デイズトライアルサーキットに出場した多くのレーサーが愛用。
1957年にスコットランドで開催された6日間耐久ロードバイクイベントでは、全参加選手のうち97%が、バブアーの「インターナショナル」を着用していたといいます。
また、1964年には俳優スティーブ・マックイーンもこのレースで着用し、それがきっかけで「インターナショナル」は世界的に大ブレイク。今日まで、その改良版が販売され続けています。
「インターナショナル」はバイクレーサー向けに開発されただけあって、独特のデザインと耐久性を持っています。
ジャケットには、バイク乗りにとって便利な大きなポケットやベルトが施され、独特のシルエットなどの機能的要素が随所に取り入れられています。
そして現在では、オリジナルの「インターナショナル」ジャケットをベースに、素材やディテール違い、また同コンセプトのパンツなども展開し、シリーズ化しているのです。
王室メンバーも愛用するバブアー
メンテナンスさえしっかりすれば、数十年も着用可能な高品質。
かつシンプルで上品なデザイン、真摯なものづくりの姿勢を保ち続けるバブアーは、イギリスの上流階級にも注目され、ハンティングやフィッシング、乗馬などのアウトドアスポーツにおける必需品として選ばれてきました。
冒頭でも軽く触れましたが、英国王室メンバー御用達ブランドであることも有名です。
王室メンバーで最初にバブアーを着たのは、エリザベス女王の配偶者で、洒落者として有名だったエディンバラ公フィリップ。彼は1974年に、バブアーへロイヤルワラントを授けました。
その後、1982年には当時のエリザベス女王、1987年には当時のチャールズ皇太子からもロイヤルワラントを授けられ、バブアーは名実ともにイギリスの一流ブランドとしての地位を確立します。
1980年に登場した軽量の乗馬服「ビデイル」や、1983年に発表されたゲームハンティング用の「ビューフォート」など、オイルドクロス地を使用したワックスジャケットは、バブアーの象徴的な存在として、今も定番の人気商品になっています。。
また1990年代には、東京やニューヨークの若いビジネスマンの間で、スーツの上にアウターを着るスタイルが流行り、バブアーはハイセンスな服として一段と評価されるようになりました。
現在では、アウトトドアユースだけでなくアーバンファッションとしても、スタイルにこだわる人々から絶大な支持を受けています。
しつこいようですが、バブアーのアイテムは耐久性と機能性が高く、高い防水性と防風性を備えていることが最大の売りです。
でもそれだけではなく、多機能ポケットや調節可能なカフスなど、実用的なディテールを持っているため、登山やハイキング、キャンプなどのアウトドアアクティビティから、都市部での日常使いまで、幅広く適応します。
また、無骨でオーセンティックながら、ブリティッシュスタイルのおしゃれな雰囲気が醸し出されているため、純粋なファッションアイテムとしても高い価値を持っています。
バブアーのアウターウェアは、一度買えば生涯にわたって付き合える、まさに“本物中の本物”。
この機会にぜひ、ワードローブに取り入れてみたらいかがでしょうか。